
高血圧で治療中の方から、とてもよく聞くご相談があります。
「いつもは130くらいなのに、今日は160ありました。大丈夫でしょうか?」
「血圧が180になって、怖くて何度も測ってしまいました」
「高かったので、いつもの薬をもう1錠飲んだほうがいいですか?」
「血圧が高いと、脳の血管が切れてしまうのでは!」と不安になりますよね。
しかし、高血圧についてぜひ知っておいていただきたいことがあります。
高血圧で私たち医師が最も気にしているのは、「一度だけ高い血圧」ではなく、「高い血圧が長期間続いていること」です。
血圧は、そもそも一日の中で大きく変動します
血圧は体温のように一定の値を保つものではありません。
運動したとき、階段を上ったとき、寒いとき、痛みがあるとき、緊張したとき、イライラしたとき、寝不足のときなど、血圧は自然に上昇します。
これは異常というよりも、必要に応じて心臓から全身へ血液を送り出すための正常な身体の反応でもあります。
そのため、あるとき測った血圧が160や170だったからといって、その数字だけで直ちに血管や脳に障害が起きるというわけではありません。
実際、欧州心臓病学会(ESC)の高血圧ガイドラインでも、高血圧による心臓・脳・腎臓・血管などへのダメージは、主として持続的な血圧上昇が長期間続くことで徐々に蓄積されるものと考えられています。
高血圧治療は、
「今日、一番高かった血圧を下げる治療」ではなく、「この先何年、何十年という期間に血管にかかる負担を減らす治療」
と考えると分かりやすいでしょう。
1回の血圧より「平均」を見ましょう
血圧を「写真」に例えてみましょう。
1回の血圧測定は、その瞬間を撮影した1枚の写真のようなものです。
たまたま緊張している瞬間を撮れば高くなりますし、リラックスしている瞬間なら低くなります。
私たち医師が知りたいのは1枚の写真ではなく、何日間もの写真を並べたときに、
「普段、この人の血圧はどのくらいなのか?」
という全体像です。
そのため、家庭血圧についても国際的なガイドラインでは、1回の測定値だけではなく、朝・夕など決まった条件で複数回測定し、数日間の平均値で評価することが推奨されています。
「高い!」と思って何度も測ると、さらに高くなることも
ここには少し厄介な悪循環があります。
血圧を測る
↓
「170もある!」と驚く
↓
「脳卒中になったらどうしよう」と不安になる
↓
交感神経が活発になる
↓
心拍数や血圧がさらに上がる
↓
怖くなって、また測る
という悪循環です。
ですから、予想外に高い数字が出たときには、数字を追いかけ続けないことも大切です。
高い血圧が出たときは、まず5分休みましょう
ご自宅でいつもより高い血圧が出たら、まず慌てずに座って休みましょう。
背もたれのある椅子に座り、足を組まず、腕を心臓と同じくらいの高さに置いて、5分ほど安静にします。
そして、もう一度測ってみてください。
家庭血圧を測る際には、1~2分程度の間隔をあけて2〜3回測定する方法が推奨されています。
それでも普段より高ければ、その数字は記録しておきましょう。
大切なのは、
「今すぐこの数字を正常値まで下げなければ」
と考えることではなく、
「最近の血圧全体として高くなっていないか」
を見ることです。
薬を自己判断で増やしたり減らしたりしないでください
もう一つ、とても大切なことがあります。
「今日は高いから薬をもう1錠飲もう」
「今日は低いから薬を飲まないでおこう」
という調整を自己判断で繰り返すことは、原則としておすすめできません。
降圧薬の多くは、毎日一定量を服用することで血圧を安定させるように設計されています。
その日の数字だけを見て服用量を変えてしまうと、今度は血圧が下がりすぎたり、翌日に再び上昇したりして、かえって血圧を不安定にしてしまう可能性があります。
薬の増減は、数日~数週間の家庭血圧や体調などを確認しながら、必ず医師と相談して決めるようにしましょう。
ただし、「すぐ相談したほうがよい高血圧」もあります
もちろん、すべての血圧上昇を放置してよいわけではありません。
特に180/120 mmHg前後以上の著しく高い血圧が繰り返し測っても続く場合には、ご相談ください。
また、血圧の数字にかかわらず、
- 胸が強く痛む
- 息苦しい
- 突然、手足が動かしにくくなった
- ろれつが回らない
- 急に見え方がおかしくなった
- 意識がおかしい
などの症状を伴う場合には、脳卒中や心血管疾患などの可能性もあるため、速やかな医療機関への受診が必要です。
一方で、症状がなく、一時的に血圧が高くなっただけの場合には、「数字が高い=直ちに救急事態」というわけではありません。
近年の高血圧ガイドラインでも、著しく高い血圧であっても急性の臓器障害がなければ、必ずしも救急で急激に血圧を下げるのではなく、内服薬を適切に調整しながら外来でゆっくりと管理することが基本とされています。
血圧計は「危険を知らせる警報機」ではありません
血圧計は、高血圧治療にとても役立つ道具です。
しかし、血圧計に表示された数字を、そのまま「現在の危険度」と考えてしまうと、不安を強くする道具にもなってしまいます。
一度の数字に一喜一憂する必要はありません。
一回の高値より、いつもの血圧。
最高値より、平均値。
その瞬間より、長い目で見る。
これが高血圧と上手につきあうための大切な考え方です。
血圧がいつもより高かった日は、「大変だ、すぐ下げなければ」と考えるのではなく、
「今日は少し高いな。記録して、しばらく様子を見よう」
くらいで大丈夫なことがほとんどです。
そして平均値としての血圧が以前より高くなってきたときこそ、私たち医療者に相談してください。
高血圧治療の目的は、毎日の血圧を完璧な数字にすることではありません。
血圧とうまく付き合いながら、10年後、20年後の脳・心臓・腎臓を守ること。
それが、本当の治療のゴールです。
不明なことがあれば、いつでもファミリークリニックあざみ野でご相談ください。


