
「朝、どうしても起きられない」
「学校に行こうとすると頭痛や腹痛がする」
「午前中は調子が悪いのに、午後になると元気になる」
こうした症状が続く場合、起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)という疾患の可能性があります。
起立性調節障害は、特に思春期の子どもに多くみられる、自律神経による循環調節の不調が関係する病気です。
周囲からは「夜更かしのせい」「学校に行きたくないだけ」と誤解されることもありますが、本人の気持ちや努力だけでは解決できない、身体的な問題が生じることによる症状だと考えられています。
起立性調節障害のしくみ
私たちが横になった状態から立ち上がると、重力によって血液の一部が下半身に移動します。
通常は自律神経が素早く反応し、血管を収縮させたり心拍数を増やしたりすることで、上半身から脳への血流を維持します。
ODではこの調節が働かず、立ち上がったときに血圧が低下したり、心拍数が過剰に増加したりします。
その結果、脳への血流が一時的に不足し、めまいや立ちくらみ、倦怠感などの症状が現れます。
思春期や二次性徴の時期には身体が急激に成長しますが、これに自律神経やホルモン分泌の成長が追いつかず、ODが生じると考えられています。¹⁾
ちなみに起立性調節障害は日本独自の病名で、国際的に統一された独立の診断単位として広く用いられているわけではありません。
海外では朝起きられなくても無理やり起こして学校に行かせる、学校も出席を何より重視する国もあり、文化圏の違いで疾患の概念も異なるものとなっています。
また、学術的に裏づけされた考え方ではありませんが、日本社会の成熟により子どもが昔より安全な環境で育つことができるようになったことで、全般的に成長、成熟が遅くなっているのではないかとも言われています。
「大人扱い」される時期が年々後ろ倒しになり、その分、子どもの神経的な成長がゆっくりになり、身体の成長との差が生まれることが、ODや不登校をはじめとした様々な問題を生じさせている、という仮説もあります。
どんな症状が現れるか
代表的な症状には、次のようなものがあります。
- 朝なかなか起きられず、午前中は調子が悪い
- 朝起きようとしてもめまいや立ちくらみがして体が起こせない
- 頭痛、腹痛、吐き気が起こる
- 疲れやすく、身体がだるい
- 長時間立っていると気分が悪くなる
- 午後から夕方にかけては元気になり、通常の生活が送れる
特徴的なのは、朝に症状が強く、午後になると改善するという点です。
そのため、朝は学校に行けないほどつらいのに、夕方にはゲームをしたり友達と遊んだりできることもあります。
この様子が周囲の誤解を招きやすいのですが、ODの場合、午後に元気だからといって朝のつらさが嘘だったわけではありません。
朝起きられない原因は、ODだけではない
ここで注意したいのは、「朝起きられない=OD」とは限らないことです。
中学生から高校生にかけての時期には、生理的に体内時計が後ろにずれることが知られています。
このため、夜なかなか眠れず、朝起きられなくなる「睡眠・覚醒相後退障害」がみられることもあります。
もちろん、スマホやゲームなどのデバイスの使用が影響することもあります。
この場合、起立時の血圧や心拍数に明らかな異常がなくても、朝の起床が困難になります。
また、睡眠不足、貧血、甲状腺疾患、心理的ストレス、抑うつなどが似た症状を引き起こすこともあります。
そのため、起立性調節障害を疑う場合には、症状だけで判断せず、必要に応じて血液検査や心電図などを行い、ほかの原因がないか確認し、診断する必要があります。
こうした評価に加え、「新起立試験」によって起立時の循環動態を調べることで、ODの正確な診断と、病型や重症度を判定することが推奨されています。¹⁾2⁾
治療について
ODの治療では、薬だけに頼るのではなく、生活習慣の見直しや環境調整、学校や親を含めた周囲の理解を醸成することが必要となります。
生活習慣の見直しとしては、以下のような点に注目します。
① 水分と塩分を適切に摂取する
脱水や循環血液量の不足は症状を悪化させるため、十分な水分摂取を心がけます。
体内に水分を維持するためには塩分が必要なので、必要に応じて塩分摂取も心がけます。
② 急に立ち上がらない
朝は布団の中で身体を動かし、座った姿勢を経てからゆっくり立ち上がるようにし、転倒や症状の出現を避けます。
③ 無理のない運動を続ける
運動不足が続くと筋力や循環調節機能が低下し、症状が悪化することがあります。
体調に合わせて軽い運動から始め、徐々に活動量を増やしていきます。
④ 睡眠リズムを整える
起床時刻をできる範囲で一定にし、日中は光を浴び、夜間の強い光やスマートフォンの使用を控えるなど、体内時計を整える工夫をします。
生活習慣の調整だけでは改善が不十分な場合には、病型や重症度に応じて薬物療法を行うこともあります。
ただし、治療への反応には個人差があり、薬だけですべての症状が改善するわけではありません。¹⁾²⁾
そもそもODは2、3年経過し自律神経が成熟することで軽快していくことが多く、薬物療法が必ず必要というわけではありません。
家族や学校の理解も大切
起立性調節障害の子どもにとって、つらいのは身体の症状だけではありません。
「どうして起きられないの?」
「怠けているのではないか」
そう言われ続けることで、自信を失ったり、学校に行けないことへの罪悪感を抱いたりすることがあります。
まわりの理解がえられず自分を責め続けると、うつ病など二次的な精神疾患を併発することもあります。
大切なのは、周囲が本人のつらさを認めながら、身体面と心理社会面の両方から支えていくことです。
学校とも相談し、遅刻しての登校や授業への参加方法など、体調に応じた柔軟な対応を相談し、家庭と学校が協調しながら本人をサポートしていくことが症状の悪化を防ぐことにつながります。
おわりに
日々の診療のなかで、OD、もしくはそれを疑う症状を呈するお子さんは年々増えている印象があります。
専門科である児童精神科や思春期外来はまだまだ医師の数も開設している医療施設も少なく、需要と供給が見合わっていない状況です。
すでに起立性調節障害はわれわれ家庭医、総合診療医が日常から診るべき「コモンディジーズ(日常的に遭遇する頻度の高い疾患)」の一つになってきていることを痛感しています。
ファミリークリニックあざみ野では起立性調節障害を疑うお子さんの診察を受け入れています。
お困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。


