
「昔からお腹が弱く、すぐ下痢をする」
「検査をしても異常がなく、過敏性腸症候群と言われた」
「整腸剤や下痢止めを飲んでいるけれど、なかなか良くならない」
こうした症状で悩んでいる方は少なくありません。
慢性的な下痢の代表的な病気のひとつが、過敏性腸症候群(IBS)です。
特に下痢を繰り返すタイプは「下痢型過敏性腸症候群(IBS-D)」と呼ばれます。
近年、IBS-Dと診断されている人の中に、実は「胆汁酸性下痢」という別の仕組みで下痢を起こしている人が、かなりの割合で含まれていることがわかってきました。
研究によって多少差がありますが、IBS-D患者さんのおよそ3割に胆汁酸の吸収異常が認められるとの報告もあります。
つまり、「体質的にお腹が弱い」「ストレスのせい」と思っていた下痢に、別の治療可能な原因が隠れていることがあるのです。
そもそも「胆汁」とは?
胆汁は肝臓で作られる消化液で、特に脂肪の消化・吸収を助ける働きをしています。
食事をすると胆汁が腸の中に分泌され、仕事を終えた胆汁酸の大部分は小腸の一番奥にある回腸末端で再び吸収され、肝臓に戻って再利用されます。
これを「腸肝循環」といいます。
本来、胆汁酸はこのようにリサイクルされるため、大量に大腸まで流れ込むことはありません。
ところが、何らかの理由で胆汁酸が回腸で十分に再吸収されなかったり、作られる胆汁酸の量が多くなりすぎたりすると、余分な胆汁酸が大腸まで流れ込んでしまいます。
すると胆汁酸が大腸を刺激して、
- 腸の中への水分や電解質の分泌を増やす
- 腸の動きを活発にする
といった作用を起こします。
その結果、急な便意や水のような下痢が起こるのです。
これが「胆汁酸性下痢」です。
胆汁酸性下痢には3つのタイプがあります
胆汁酸性下痢は、原因によって大きく3つに分類されます。
① 回腸で胆汁酸を吸収できないタイプ
クローン病などで回腸に炎症があったり、手術によって回腸を切除していたりすると、胆汁酸を十分に回収できなくなります。
その結果、吸収されなかった胆汁酸が大腸まで流れ込み、下痢を引き起こします。
② 原因となる病気がないタイプ
最も多いと考えられているのが、この「特発性」と呼ばれるタイプです。
明らかな腸の病気がないにもかかわらず、胆汁酸を作る量の調節がうまくいかず、肝臓で胆汁酸が過剰に作られてしまうことがあります。
IBS-Dと診断されている患者さんの中に隠れていることが多いのが、このタイプです。
③ ほかの病気や手術などに伴うタイプ
胆嚢摘出や慢性膵炎などに伴って胆汁酸性下痢が起こることもあります。
特に「胆嚢を取ってから下痢をしやすくなった」という場合には、胆汁酸が関係している可能性も考えます。
IBSと症状だけでは区別しにくい
胆汁酸性下痢が見逃されやすい最大の理由は、症状がIBS-Dと非常によく似ていることです。
胆汁酸性下痢では、
- 水っぽい下痢を繰り返す
- 食後や朝に下痢をしやすい
- 急に強い便意がくる
- 腹部に不快感がある
- ときに便失禁を起こす
といった症状がみられます。
これだけを見ると、IBS-Dと区別するのは簡単ではありません。
そのため、内視鏡検査などで大きな異常が見つからなかった慢性下痢が「過敏性腸症候群」と診断され、そのまま治療されているケースもあります。
胆汁酸性下痢の治療方法は
胆汁酸性下痢は、余分な胆汁酸が大腸を刺激することが原因です。
そこで治療には、腸の中で胆汁酸を吸着する「胆汁酸吸着薬」が用いられます。
胆汁酸を薬で捕まえて便と一緒に排泄することで、大腸への刺激を減らします。
また、食事中の脂肪が多いほど胆汁酸の分泌も増えるため、脂肪を摂りすぎない食生活によって症状が軽くなる人もいます。
IBSで整腸剤や下痢止めだけでは改善しなかった人でも、胆汁酸という別の方向から治療を考えることで症状が改善する可能性があります。
「体質だから仕方ない」とあきらめる前に
過敏性腸症候群そのものは非常によくある病気ですし、ストレスや自律神経、腸内環境などが症状に影響することも事実です。
一方で、慢性的な下痢をすべて「体質」や「ストレス」で片付けてしまわないことも大切です。
特に、
「水のような下痢が続いている」
「朝起きたときにすぐトイレに行きたくなる」
「便意が突然やってきて我慢できない」
「胆嚢を摘出してから下痢が増えた」
「IBSの治療を続けているのになかなか改善しない」
といった場合には、胆汁酸性下痢を含めて、ほかの原因が隠れていないか一度考えてみてもよいでしょう。
慢性的な下痢で困っている方は、「いつものことだから」とあきらめず、ぜひ一度ファミリークリニックあざみ野でご相談ください。


